リリース詳細

2009年04月03日

掲載先:http://diamond.jp/series/marriage/10004/
西川敦子(フリーライター)
【第4回】 2009年04月03日
以下、ダイヤモンドオンライン掲載記事を引用

【記事】フリーターだって結婚できる! 結婚後に正社員を勝ち取った「リベンジ婚」の男たち ――「正社員でないと結婚できない」は本当なのか?

『お客さん、独身ですか?』

  出版関連業の佐野みどりさん(仮名・40代)は、出張先で乗ったタクシーで突然ドライバーにこう話しかけられた。

『私、以前はアパレル業界にいたんですけど会社が倒産して、最近タクシードライバーになったんです。 いちおう正社員なんですよ、ボーナスもちゃんともらえます。実はいま、人生のパートナーを探していましてね。 お客さんみたいな方、タイプなんです』

「なんと、“婚活タクシー”だったんですよ!片っ端から女性客に声をかけているんでしょうかねぇ。 後ろから見た感じだと素敵な人みたいだったし、正社員ということだったし、一瞬いいかも?!と思いましたけど、 なにしろ初乗りでしたから(笑)。突っ込んだ話もできず、そのまま降りました」

  結婚するなら、まず正社員にならなければ――。冒頭のドライバー男性がそう考えてタクシー業界に飛び込んだかどうかは不明だが、 雇用形態によって結婚事情が異なるのは事実のようだ。

  厚生労働省が3月11日に発表した「21世紀成年者縦断調査」によると、この5年間で結婚を決めた男性のうち、正規社員は24%で、 非正規社員は 12.1%の約2倍だった。また、モバイルリサーチを展開するネットエイジアが2月3日に発表した携帯電話による意識調査結果で は、「正社員になりたい」という人は全体の6割強。ただし、「ある程度の妥協はしてもいいので正社員になりたい」という人は女性が15.3% だったのに対し、男性では31.6%に上った。

「派遣切り」が問題になって以来、「正社員にあらずんば人にあらず」あるいは「結婚相手にあらず」といった風潮は、 ますます高まっているにちがいない。

タクシードライバーや介護職も視野に「正社員になって結婚したい男たち」

  松島さゆりさん(仮名・27歳)は不動産会社で働く正社員。さとう珠緒似の色白美人だ。 「30歳前にはなにがなんでも結婚する」と心に誓い、合コンに精を出している。

「結婚するなら絶対に正社員!これだけは譲れないですね。 でも、合コンで『失礼ですけど、正社員ですか?』なんて聞けないじゃないですか。その点、効率が悪すぎるんですよね、合コンって。 相手の雇用形態や勤務先、年収は早い段階で知りたい。 だからこの頃、結婚紹介所に入会しようかなあ、って考えているんです」

  婚活女子の安定願望に、男性も影響されているのだろうか。雇用市場にも変化が見えてきた。 タクシー会社の人材マッチングを行なう日本総合ビジネスは次のようにコメントする。

「不況の影響を受けてか、タクシー会社正社員を希望する人数はここのところ急増していますね。 30代男性も昨年同時期の1.5~2倍くらい増えています。 前職は自動車整備業、製造業、飲食・サービス業という方が多いです」

  3月2日、横浜市で開催されたリクルート「タウンワーク社員適職フェア」。 正社員就職を希望するフリーターや非正規雇用の人々が数多く足を運んだ。 出展企業のひとつでグループホームを展開するノベライズ社 代表取締役吉田正浩氏は、当日の模様をこう振り返る。

「驚きましたね。20~40代の男性がどっとブースに詰め掛けてこられたんです。 うちは今回は女性のみの募集だったので、そのことを先に断ったのですが、みなさん、話だけでも聞かせて欲しいと言われる。 介護労働の厳しさはマスコミでも頻繁に取り上げられていましたが、3年頑張れば介護福祉士、 5年頑張ればケアマネージャーといった国家資格を取得できる。 しっかりしたキャリアパスを構築できることから、男性にも見直されつつあるのかもしれません」

  結婚を意識する就職希望者が、このうちどの程度いるかはわからない。 だが、「家庭を持つことが正道」とされてきた日本において、正社員の身分は長らくその通行許可証のようなものだった。 許可証のない男性は「家庭を持たないのではなく、持てないのだ」と見るオツムの古い人もいるかもしれない。 正社員として就職できるのならどんなチャンスでもつかみたい、と考える独身男性が増えても不思議はないだろう。

契約社員の身分を隠して結婚
あえて自分を追い詰め、正社員に

とはいっても、なかには結婚をきっかけに正社員になるという「リベンジ婚」を果たした男性もいる。

宮田啓司さん(32歳)が妻と知り合ったのは、彼が失業中のこと。 友人から紹介された5歳年下の女性に一目惚れし、すぐに交際がスタートした。 女性には失業中であることを明かしたが、彼女は「かまわない」と言ってくれた。 そんな彼女の純粋さにますます惹かれ、ほどなく結婚を意識するようになった。

「結婚する以上、ちゃんと正社員になるから」。そう約束して大手IT関連会社に入社。 夜勤の多いきつい業務だったが、彼女との将来のためと思い、必死で仕事を覚えた。そしてめでたく結婚。 ところが、じつはこの時点で宮田さんは契約社員だったという。

「契約社員だったことは妻にも妻の実家にも、そして自分の家族にもひた隠していました。 正社員になれたのは、結婚して1年近く後のこと。そのとき初めて妻に『ごめん、じつは』と打ち明けた。 かなり呆れていたけれど、笑って許してくれましたよ」

試用期間に認められる仕事をして絶対に正社員になってやる、という意気込みが彼にはあったのだろう。 もちろん、ほめられたことではないかもしれないが、多少の反則ワザでも使わなければ、結婚すら難しいのが今の日本の現実なのだ。

  宮田さんは結婚2年目で都内にマンションを購入。現在、夫婦2人の名義でローンを返済中だ。 家事を分担し、おたがいいたわりあいながら共稼ぎライフを送っているという。

ニートを正社員に変えた
彼女の妊娠、そして結婚

  1年前までニートだった近藤良介さん(仮名・29歳)も、結婚によって人生を切り開いた一人だ。 高校卒業後、ミュージシャンを目指して独立した彼は、バンド活動のかたわら、アルバイトやパチンコで生計を立てていた。 派遣で引越し・運送会社の仕事をしていた時期もある。とはいえ給料は安く、交通費も出ない。 わけのわからない名目でおカネが引かれていることも多かった。

  7歳年上の妻とはバンド活動がきっかけで出会った。 昨年5月に彼女の妊娠が発覚し、結婚を決意。 とはいえ、ミュージシャン志望のフリーターという立場であり、彼女の両親に許しを得るのは大変な勇気が必要だった。 近藤さんが取ったのは「手紙作戦」だ。現在無職であること、これからは心を入れ替えて妻と子どもを守りたい、 ということなどを心をこめて綴った。思いは両親の心に届き、無事入籍できた。ただし、仕事のほうはなかなか見つからなかったそうだ。

「3ヵ月間くらい、毎日毎日ハローワークに通いました。 選ばなきゃ仕事はそこそこあるんですけど、妻がいて子どもができて、となるとどうしても慎重にならざるをえない。 面接に漕ぎ着けたのは10社くらいです。なかにはあまりにも募集要項と違いすぎて、面接の途中で出てきちゃったところもありますね。

  ようやく就職したのはカラオケ、ボウリング、ゲームなどがある複合レジャー施設。 昼ごろ出社して閉店する午前1時過ぎまで働きます。人手不足なので残業も多いです。もちろんサービス残業ですが。 ボーナスも米5キロの現物支給です(笑)。給料は月16万円ですが、ありがたいことに、近々上がるという話を聞いています」

  今年1月に生まれた娘とお風呂に入るのは至福のひとときだ。しがみついてくる小さな手の握力。あどけない笑顔。 なんとしても妻や子どもを守らなくては、という思いがふつふつと心に湧いてくる。

  社会人としてスタートが遅れてしまったので、まずは今の会社でしっかり勉強をしたい、と語る近藤さん。 基礎固めができたら、1年で年収を倍にする。それから遅くても5年後には一戸建てを購入するつもりだ。 こうした目標を紙に書き、いつも持ち歩くようにしているという。

「結婚していなければ、子どもが生まれていなければ、自分もまだニートだったかもしれない。 人生何がきっかけになるかわかりませんね。 つらい時代ですが、ニートの男性たちには、世の中や自分を否定しないで生きて欲しいと思います。 何かを認めるだけで、がらっと人生が変わることがあるのですから」

「結婚して正社員になることが幸せにつながるとは限らないが、 家庭を持っていると精神的に踏ん張りがきく」と話すのは「アルグラット・ライフデザイン」代表でオールアバウト「恋愛相談」 ガイドの久野浩司氏。家族に頼られている、認められているという思いと責任感が原動力になり、仕事の成果に結びつきやすいという。 結婚にはプラスのスパイラルを生む大きなエネルギーがあるのかもしれない。こんな時代だからなおのこと、 家族という味方は心の支えになるのだろう。

「仕事に恵まれないから結婚できない」という負のスパイラルから脱するには、 「先に力ワザでなんとか結婚してしまう」という方法もアリだ。草食系男子を返上し、 冒頭の“婚活タクシー”のように積極的に活動してみてはいかがだろうか。案外、転職も成功するかもしれませんよ。